芸(術)は猫を助けない?
2007年11月28日(水)
地方都市の小さな画廊でジャン・ジャンセン展が催される。ジャンセンの描く女性はひたすら細く、肉欲をそそる豊満さはないが、妙に怠惰なエロティシズムを漂わせている。ジャンセンと聞くと、ずっと昔、画廊でアルバイトをしていた頃のことを思い出す。
某大手商社に勤める30代後半と思しき男性が、ジャンセンの版画を購入した。その版画はジャンセンの絵の中でもことのほかエロティックで、細身の女性が臆面もなく大きく足を開き、画家はそれを真正面から描いている。巨匠ジャンセンの絵といえども、これを買うには勇気がいる。
購入した男性、後日自宅に届けて欲しいが、日と時間を必ず守って欲しいと言う。ところが画廊主、うっかり別の日に版画を届けてしまった。マンションのインターホンを押すと現れたのは奥方。その後どういう家庭争議が繰り広げられたのかはわからないが、当の男性から、ものすごい勢いでクレームの電話が入った。どうして約束を守らなかったのかと。
どうやら奥方には内緒で買ったらしい。諍いの内容は「なんでこんなお高い版画を黙って買ったの?」か、あるいは「なんでこんないやらしい絵を買ったの?!」のいずれかに違いない。下種の勘ぐり、あの版画を亭主がこっそりと隠れて買ったとなれば、やっぱり後者。
それにしても、怪し気なジャンセンの版画がどうして「春画」ではないのか。ここが「芸術」という定義の面白いところ。木下直之『美術という見世物』(ちくま学芸文庫)の中に、歌川芳国の「当盛見立人形之内 条の仙人」という錦絵が紹介されているが、この錦絵の下絵など、ジャンセンの版画と、描くところほとんど変わりがない。
久米仙人を雲の上から落とした「布洗い女」は大きく足を広げて、下半身も露わ。この布洗い女のモデルは、松本喜三郎という、当代きっての「生人形師」が作った裸体の女性の人形らしい。
喜三郎の生人形といえば、見世物小屋の興行でずいぶんと評判だったらしいが、明治2年に政府が「春画並ニ猥ケ間敷錦絵」を取り締まるようになり、同時に「男女の裸体モ相見ヘ不埒ノ至」として、喜三郎の人形も取り締まりの対象となっていったようだ。
錦絵として完成された芳国の「当盛見立人形之内 条の仙人」に、下絵のような露骨な描写が見られないのは、こうした理由が関係しているのだろう。木下氏は、生人形(の裸体)は「見世物」であったという理由で、西洋人の規定する「美術」から大きく逸れてしまったのだとしているが、はて、芸術的な裸体と猥褻な裸体、凡人はどう見分ければ良いものかと頭をひねるばかり。
これって、またしても猫の話題とは何にも関係がないじゃないって?いえー・・・
数日前、市川崑監督の『我輩は猫である』をCSの日本映画チャンネルで観てのこと。仲代達也だの波野久里子だの緑魔子だのと、市川監督だからこその一流の芸達者たちの顔、カオ。
けれど、その演技がいやらしく感じて閉口するばかり。昔、渋谷の「ジャンジャン」にシェイクスピアシアターの芝居をよく観に行ったけれど、あの時のリア王の大仰な演技、芝居となんら変わりない。うんざりしながらも、それでも最後まで観ていたのは、市川監督、「我輩」が最後に大きな甕に落ちて溺死する場面をどう描写するかしらと、そこに興味があってのこと。
あれれ、センスないなあ。甕に本当に猫を尽き落としたのだろう、溺れる姿をカメラが下から写す。細君が翌朝甕を覗くと、ポッカリ浮かんでいる我輩。一部だけしか映らないのだけれど、やけにリアルな毛、しかも、もはや生きてなんていないことが明白な無機質な毛。いやな場面だ。
そもそも、随所に現れる猫の描写に、猫をいとおしく思う監督の目が感じられないのはどうしたことか。猫が動こうとした時、右手足が床から離れずニャーとひと鳴きしてもがくような仕草をしたのを、猫好き、見逃してはいませんぞ。錯覚ではあるまいて。
きっと市川崑は猫が嫌いに違いないと、せっかくの「芸術」映画を観ての感想はそれだけ。巨匠の撮る映画が浴する「芸術」という評価。そこで表現されるものすべてが美化されてしまうが、映画にせよ絵画にせよ文学にせよ、観客のイマジネーションを強奪するものなど、「芸術」とは言えないんじゃないかと、そう思ったりして。漱石も「我輩」の最後、こんな書きかたをしちゃいない。
本当に死んだのかどうか定かではないけれど、監督の名声のために甕で溺れた哀れな猫ちゃんよ、「太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
写真:(上)ジャンセンのモデル風肢体を見せるミイちゃん。足を開いているけれどひとつもセクシーじゃない。ちょっと大きめだし。(左)3匹の子猫の近況です。はい、かわいいです!里親・・・~~;
プロフィール
鈍行列車の「ちゅうちゅうとれいん」はいつも満員(ふ~っ…)!時々燃料切れを起こして更新が滞ることがありますが、どうぞ末永くおつきあいくださいネ。姉妹編の「あけみ参上つかまちゅり~」もよろしくお願い致します。
Cast

樹里絵(jyurie):1998年生まれ。マイペースで世話が焼けません。性格温厚で超パパっ子。

桃之輔(momonosuke):1999年生まれ。甘えっ子ですが、ものすごく臆病で、ほとんど一日中、布団の中に隠れています。

亜依子(aiko):2000年生まれ。自己主張が強くて偏屈ですが、そこがまた可愛いいんだなあ。超ママっ子です。

真美(mami):2005年生まれ。外見はタヌキそのもの、性格は犬そのものです。才気煥発で気性が激しい。

美意子(miiko):2005年生まれ? 歯を見ると6、7歳…本当は何歳だろう?一日中、文句たらたら言っています。

奈々(nana):2001年生まれ。ようやくノラっぽさもなくなり、明るい陽気な子になりました。
明美(akemi)にゃ三郎(nyasaburou)、小牧(komaki):2007年生まれ。仲良し3兄弟。毎日楽しそうに暮らしています。

里音(satone):2009年8月保護。どんな生い立ちでどんなニャン生を過ごしてきたのか、それは謎です。未来を生きる猫!

寿々(suzu):1994年12月~2010年3月12日。パパの仕事部屋に入れた唯一の子。人の気持ちがよくわかる、とてもとても頭の良い子でした。

福太郎(fukutarou):1997年4月~2008年3月20日。陽気で甘えっ子。抱っこされるのが大好きでした。お母さん代わりだった寿々との再会、「欣喜猫躍」していることでしょう。
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コメント一覧(2)
うふふ、今回の記事も面白いなあ。
ジュリママさんならではの視点ですね。
ジャンセンでそんな大胆な構図の絵があったんですか。
エゴン・シーレを今ちょっと想像しました。
日本の春画ってなかなかいいものですよね。
もちろんドギツイものもありますが一流の絵師が書いたものは
とてもきれい。
例のあれが特大サイズというのもほとんど「様式美」って感じで。
女性と蛸なんて組み合わせもけっこう気に入ってます。
『我輩は猫である』はそんな映画作品になっちゃってるんですか!
原作を何度も読んで愛着のある作品なのに…うーん、それはひどい。
確かに小説でも映像でも「説明しすぎ」は非常に白けるものですね。
…って春画は…あれはいいんです。好きだから(笑)。
ねこぼーし | 2007年12月01日 05:30
ねこぼーしさん
エゴン・シーレは強烈ですよね。
版画はあまり残していないようですよ。
それにしても・・・
ねこぼーしさんに春画のご趣味がおありだったなんて(笑)
しかも春画を「様式美」にしちゃうあたり、さっすがー!
でも確かに一流の絵師の描く春画は、
線が巧みですよね。立派な「美術」。
冬の寒空、コタツで熱燗をちびちび飲みながらの
絵談義、これ、一度やってみたいですねえ~~;
楽しそう!
ジュリママ | 2007年12月01日 19:12