棄てられし犬を捕まえる人
2007年06月25日(月)
向こうから来る人、どこかで会ったことのある顔だと思っていたら、お久しぶり、と声をかけられた。まだ20代だった頃のずっと年下の友人。その頃彼はまだ大学生で、アマチュアのオーケストラでトロンボーンを吹いていた。演奏会があると招待券を送ってきてくれたから、そのたびに聴きに行っていたが、忙しくなってしまったのか、演奏会の案内もこなくなってそれきり。
その後どうしていたのかと尋ねると、大学を卒業して役所に勤めたと言う。あまり冒険のできるタイプでもなく、どちらかといえば物静かでおとなしいタイプ。だから、営業だのなんだのには不向き、適材適所、堅実な仕事についたと思い、よかったわねえと。
ところが彼、その仕事に不満があるらしく、やめたいと思っているのだけれど、次の仕事を探すことを考えると、それもできないと呟く。もう記憶もさだかではないが、彼が当時いた部署は保健衛生課とかなんとか。どんな仕事なのかと思ったら、野良犬の捕獲をさせられたりしているのだと言う。
苦情の電話がかかってくると車を走らせ、犬を捕まえに行く。動物好きには宿敵、よりにもよってそんな仕事をしているの?と喉元まで出かかったが、彼にとっては仕事。それを非難することなんて誰もできやしない。
彼、それほど動物が好きではなかったようで、捕まえることにはあまり抵抗がないらしく、それより、捕まえるときに犬の毛が飛び散り、それが喉に入り、気管支をやられてしまうことのほうがずっと重大問題。そのせいもあって体調がすぐれないらしく、そういえば顔色が悪い。それにも増して、昔よりも格段に暗い表情、口とは裏腹、思うところがあったのかもしれない。
作家の辺見庸が、犬猫を処分するセンターを見学に行った時の様子を書いたものを読んだが、読み進めるのは辛く、読後は重い心を引きずることになった。彼はもともと動物好き、動物が好きというよりも独特の感性、生き物すべてに対する思いは、人間の弱者への思いと深く通じている。その彼が「棄てられた」犬たちの最後を記した文章は、切ない。(※)
その中で触れている殺処分の方法、あまりに無残で改めて書く気はしないが、それ以上に、「殺すため」の機械が開発され、需要があるという事実を改めて思い知らされ、愕然とした。アウシュビッツのそれとまったく同じ。その機械が、毎日いたる所で稼動しているという日本、それでも平和な国と言えるのか。
のんきに構えているが、人間とて「処分」の対象になりうるのはヒトラーで経験済み。いったん政情が変わり、非情な(あるいは無能な)為政者が、いったん、国家というシステムから宙に浮いてしまった「民」を足手まとい、そう思った時にはセンターの機械、人間を「処分」するために代用されることだって、十分にありうる話。だからこの機械、人類のためにも目障り。
機械を廃絶させるためにできることといえば、開発費用、購入費用、そして稼動させる経費を行政が知恵働かせ、もっと別なこと、犬猫を生かすために使うか、センター行きの動物をなくすための飼い主教育ぐらいしか思いつかないが、毎年40万から50万という処分頭数はいかにも多い。頭数に見合うだけの身勝手な飼い主、センター見学を条件に引き取るということにすれば、少しは己の残酷さに気づくか。
辺見氏は文章の最後、「犬の灰の一部はこの施設の庭の花壇にひっそりと撒かれていた。せめては土に還り、土を肥やし、花を咲かせて、その霊がとことわに宇宙をめぐり循環するよう私は念じる」と結ぶ。その気持ち、飼い主に聞かせてやりたいが、聞いたところで他人事。それほどの情があれば、もとよりそんなこと、するはずもない。
先の友人と会ってからの複雑な心境、それも次第に煩雑な日常にまぎれ、すっかり忘れてしまっていた。それからずいぶんたった頃、スーパーをうろうろしていると、後ろから旧姓を呼ぶ男性の声。振り向いたが、誰だかわからない。
立ちすくんでいると、僕ですよと、あのトロンボーン吹き。顔がまったく違う。あちこち引きつっているし、そもそも顔形が違うから、まるで別人。怪訝な表情に気づいた彼、あれから車の大事故、危うく死ぬところを命だけは取りとめたが、大手術をして顔が変わってしまったと。以前にも増して暗く、声はほとんど聞こえない。
犬の災いだなどと、そんな酷い言葉をぶつける気はまったくないし、彼の仕事をとやかくいうつもりも毛頭ないが、それでもやはり捕獲された犬の思い、どこかに残っていたのかもしれないと、心密かに。恨むなら飼い主、決して彼ではないのに。
(※辺見庸『独航記』(「棄てられしものたちの残像」,角川文庫,2004年)
写真:(上)棄てられし犬たちに庭の花をたむけよう。はかないのは、花は毎年咲くが、失われた命は還らないということ。(左)三者三様、外猫になる猫、家猫になる猫。それぞれが運命か。
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プロフィール
鈍行列車の「ちゅうちゅうとれいん」はいつも満員(ふ~っ…)!時々燃料切れを起こして更新が滞ることがありますが、どうぞ末永くおつきあいくださいネ。姉妹編の「あけみ参上つかまちゅり~」もよろしくお願い致します。
Cast

樹里絵(jyurie):1998年生まれ。マイペースで世話が焼けません。性格温厚で超パパっ子。

桃之輔(momonosuke):1999年生まれ。甘えっ子ですが、ものすごく臆病で、ほとんど一日中、布団の中に隠れています。

亜依子(aiko):2000年生まれ。自己主張が強くて偏屈ですが、そこがまた可愛いいんだなあ。超ママっ子です。

真美(mami):2005年生まれ。外見はタヌキそのもの、性格は犬そのものです。才気煥発で気性が激しい。

美意子(miiko):2005年生まれ? 歯を見ると6、7歳…本当は何歳だろう?一日中、文句たらたら言っています。

奈々(nana):2001年生まれ。ようやくノラっぽさもなくなり、明るい陽気な子になりました。
明美(akemi)にゃ三郎(nyasaburou)、小牧(komaki):2007年生まれ。仲良し3兄弟。毎日楽しそうに暮らしています。

里音(satone):2009年8月保護。どんな生い立ちでどんなニャン生を過ごしてきたのか、それは謎です。未来を生きる猫!

寿々(suzu):1994年12月~2010年3月12日。パパの仕事部屋に入れた唯一の子。人の気持ちがよくわかる、とてもとても頭の良い子でした。

福太郎(fukutarou):1997年4月~2008年3月20日。陽気で甘えっ子。抱っこされるのが大好きでした。お母さん代わりだった寿々との再会、「欣喜猫躍」していることでしょう。
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コメント一覧(4)
このテーマも永遠に忘れることのできない内容ですね。
私たちが初めてにゃんこと一緒に暮らそうと思ったとき、保健所や保護センターに連絡して、たった1頭だけど救える命があれば・・・と思いました。
だけど現実は厳しくって、一人暮らし(当時はまだ結婚していなかったので)の女には譲ることはできないと簡単に断られました。
当たり前です。
にゃんこの飼えるアパートに住んでいるのか、この先結婚しても終生飼えるのか?そんな簡単なことすらできずに、飼えなくなれば簡単にまたすぐ保健所送りにするやからが後を絶たないから。
だから少なくともにゃんこの飼育が許されているところで、かつ自分以外の住人がいてみんなが飼うことに賛成している家庭でないと譲れませんと言われました。
今はもっとハードルが高くなっているそうですが、私はそれでいいと思っています。
イマドキどんな人がいるか分かりませんし、救われるはずの命が悪行にまわされてしまうようなこともしばしばですから・・・。
保護センターの方とお話したことがありますが、考えさせられますよね。。。
やまだのママ | 2007年06月26日 00:53
先日はコメントありがとうございました。
昨晩は、ちょっと疲れててみなさんへのコメントを書きながら
ねちゃいました。。。
まだ全部は読めてないのですが、私にとっては本を読んでいるような感じ?かな。
素敵な文章、そして内容。
まだ全部は読めてないのですが、全部読破します。
ジュリママさんのオタクは今何匹のニャンコがいるのか
いまひとつわからなったです。
何匹ですか。。。
昨日は外猫のハウスに虫除けなどをしていました。
今日は暑くなる予定なので、仔猫来てくてない気がしてます。。。
ちびんた | 2007年06月26日 07:58
ちびんたさん
いらっしゃってくださって、ありがとうございます。
我が家は現在8匹が家の中、外に2匹(プラス時々
現れる子1匹)います。
外猫はご近所に迷惑をかけられないので、
神経を使います。
ちびんたさんもお庭の子たちのこと、
きっと今も気が気じゃないと思いますが、
できること以上のことはできない・・・って
そう思うしかないと思います。
動物が好きって、結構辛いものがありますよねえ(泣)
ジュリママ | 2007年06月26日 11:29
やまだのママさん
そうなんですかあ・・・。
兎にも角にも、棄てられる犬猫たちがいなくなることが
まず最優先ということですね。
動物愛護団体を始め、
心温かい犬猫愛好家の方たちの献身的な活動もあって、
以前に比べ、それでも保健所に持ち込まれる犬猫の
数は減ってきましたよね。まだまだ多いですが・・・。
私もブログで、微力ながら動物と人間との共存を訴えていければと思っているのですが、どこまで頑張れるかしら。
やまだのママさんをはじめとした、
みなさんの奮闘振りに励まされています。
ジュリママ | 2007年06月26日 11:40