競馬、御免蒙ります
2007年06月19日(火)
競馬と言えばAMラジオにつないだイヤフォーン、手には競馬新聞と赤い鉛筆、そんな侘しいおじさんたちの姿が思い浮かぶが、英国では王侯貴族のスポーツだとか。だから同じ競馬場でも、雰囲気が日本のそれとはだいぶ違い、きれいに着飾ったご婦人方を伴っての優雅な社交場。いっそのこと日本もそんな雰囲気にすればいいのに、なんて言うつもりはさらさらなく、あちらは狩猟民族、動物の走る姿に血が騒ぐのは致しかたないとして、こちらは農耕民族、真似る必要などないというスタンス。
実は競馬にちょっとだけ関わったことがある。別に賭けていたわけじゃなくて仕事。もう十数年も前のこと。某スポーツ新聞社、他の新聞社に先駆けて、普段の日はスポーツや釣果、土日は競馬の結果をリアルタイムでパソコンに打ち込み、読者に提供することになった。そのために新たに作られたセクションの室長になったのが知人。前職をやめたばかりだったことを知って、データを打ち込むアルバイトをしないかと声をかけてくれた。
スポーツにも疎いが、競馬なんて生まれて初めて、どんな賭け事なのかもまったく知らず、それなのに突然、土、日はテレビの競馬番組にかじり付くという、想像もしていなかった日々が始まった。レースごとの着順と配当金をパソコンに打ち込み、そのデータをレース毎に切り張り(!)してFAXで送信、読者が取り出す仕組み。もうひとつは、打ち込んだデータをあるシステムを使って読み取らせ、音声に変えて電話で自動的に結果を流すというもの。パソコンも十分に汎用化されていなかった当時のこと、新聞社もまだまだ前近代的で手仕事、手作業の時代、だからこれでも十分に画期的。
最初の頃は馬のあの黒い瞳に魅了され、走る姿の美しさに夢中になったが、次第に動物好きには辛い仕事になっていった。サラブレッドの使命はひたすら速く走ること。そのためだけに改良が重ねられた結果、あれだけの体をあれだけ細い脚で支えなければならなくなってしまった。500キロはある体重を4本の細い脚で支えて走るのだから、負担は相当なもの。その結果起きる事故が骨折。一日12レースのうち少なくとも1レース、何コースか廻ったところで急に一群から遅れ、離れてゆく馬がいれば、それが故障した馬。骨折とは言わずに「故障」。
骨折した馬のほとんどは「予後不良」。骨が砕けてしまうから治療など不可能。よしんば治療が可能と診断されても、重い体重を残りの3本脚で支えることなどできるはずもなく、手当ての甲斐なく他の病気を併発し、大抵は死に至る。だからよほどの名馬で、治療の望みのある馬以外、故障すればすぐに安楽死という名の薬殺処分。
競馬に詳しくなくても、ライスシャワーという馬の名前だけは聞いたことがあるかもしれない。きれいで利口で勝気で、それでいてどことなくおっとりとした雰囲気があって、好きな馬だった。1995年6月4日に開催された宝塚記念、このレース、競馬記者の大方がライスシャワーの勝利を予想していた。
ゲートから走り出し、いよいよスピードをあげて群れの先頭に立とうという時、ライスシャワーの体が突然前のめりになり、大きく崩折れた。その日のヒーローになるはずだった馬の前脚は、瞬間にして粉々に砕け、あまりの苦しみ方に、その場で安楽死処分という悲しい結末を迎えたのだった。
ライスシャワーが倒れた場面は、今も瞼から離れない。前脚を折ったのだから、頭もしくは胸から地面について転倒したはず、だから立ち上がって前脚で天空を掻くなどということは多分ありえなかったと思うのだが、そんな情景しか思い浮かばない。ヒーローの死はそれほどにも劇的、悲劇的なものだった。
なにもこの時だけではなく、ライスシャワー以前にもこんな場面はしょっちゅう。そのたびごとに、馬を賭けの道具にするなんてと思いはしたが、仕事と割り切っていた。ところが今度という今度、すっかり嫌気がさし、6年間続けた仕事をあっさりやめてしまった。
「経済動物」の定義、あまりよくは知らないが、牛・豚・鶏のように「生産」され「消費」される動物のことか。競走馬がどういう位置づけになるのかはわからないが、最初からサクラ肉になる運命、それならまだ経済動物としての宿命とあきらめもつくだろうが(つかないか!?)、人間に調教され、一攫千金を夢見る御仁の「賭け」のために命を張るのは、なんとも気の毒な話。
調教などされるものかと、生まれながらにひねた猫、それはそれで生きる知恵。なまじ人間になど懐かないほうがいい。
写真:(上)小淵沢(山梨県)の乗馬クラブで馬と遊んだ時の写真。この子はたぶん引退した競走馬。こうした余生を送ることができる馬は幸せ。(下)塩原(栃木県)で会った「トテ馬車」引きのあいこちゃん。この子はなんとなく農耕馬ふう?
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プロフィール
ジュリママと猫たちを乗せて走る鈍行列車のちゅうちゅうとれいん。車窓から見える風景を、気ままに書き綴るブログです。あけみちゃんの絵日記、『あけみ参上つかまちゅりーっ!』もどうぞよろしく。どちらもボチボチの更新ですが、末永くおつきあい頂ければ嬉しく思います。

