運が尽きるとき
2007年05月15日(火)
以前住んでいた家でのこと。夏の真っ盛り、園芸の道具を出そうと物置の戸を開けたところ、なにやら中でゴソゴソと動く気配がする。恐る恐る覗いてみると、奥のほうで茶色い猫が目を光らせてうずくまっていて、それどころか、生まれたばかりの子猫が何匹もお腹の下で動いている。物置を開けたのは1週間も前の話だから、とするとこの猫、猛暑の中で飲まず食わずのまま、サウナほどに蒸しあがった中で過ごしていたというのか。
お産をする場所を探し歩いていて、たまたま開け放していた物置に入り込んでしまってそのまま。そういえば数日前、物置の前を通り過ぎた時にガタンという音が聞こえはしたが、気にするでもなくそのままにしてしまっていた。自分は水の一滴も飲めないというのに、必死で子供にお乳を与えていたのかと思うと、母親の健気さと強さに、胸がきゅんと締めつけられる。
ところが母とは言えそこは猫、物置から一目散に飛び出し、子猫を置いたまま逃げてしまった。猫飼い初級だったママは、残された5匹もの子猫達をどうすればよいものやら、ただ心臓がバクバクするだけで解決策などまったく思い浮かばない。動物愛護団体の知人に電話をかけて事情を説明すると、「母猫は必ず戻ってくるから、なんとか捕まえて私の家に持ってきて」と言うけれど、そもそもどうやって捕まえればいいのか。仕方なく、ない知恵を絞り、大きめのダンボール箱に小さな入り口を作り、物置のすぐ横に置いて母猫が戻ってくるのを待つことにした。
しばらくして戻ってきた母猫、物置に入り、1匹ずつ子猫をくわえ出してきては、上手い具合にダンボールの中に運びこんでくれる。最後の子猫を運び終えたのを見計らって、用意していた毛布をダンボールにワッと被せ、そのままくるんで車に乗せ、大慌てで知人の家に連れていった。毛布というのは、以前別の友人が、ノラを捕まえる時には毛布を被せるのが一番なのよ、と話していたのを思い出したからだったが、今思うと無茶苦茶な話で、知人の家で毛布を開けると、母猫は飛び出して部屋の隅に逃げ込んでしまい、子猫のうちの1匹はすでに窒息死。しばらくしてもう1匹も死んでしまったが、当たり前といえば当たり前の話。
母猫は知人が面倒を見てくれることになり、3匹の子猫は離乳食が食べられるまでママが育て、その後里親を見つけることにした。行きつけの動物病院が貰い手探しに協力してくれたお蔭で、1ヶ月後に、茶キジは父親とやってきた小さな女の子の腕の中、大切そうに抱えて連れられてゆき、もう1匹の黒キジも、優しそうな若い女性に貰われていった。けれど、しっぽが捻じ曲がっている白黒だけは最後まで貰い手がみつからず、この子、もともとミバの悪い子だったので、きっと誰も貰ってくれないかもねえとパパと話していたこともあり、やむなく(いつもこれ…)我が家で面倒を見ることになった。
ところがどうして、当初の予想に反して日増しにかわいく変身してくれる。その上おとなしく、他の猫達が喧嘩を始めると遠巻きにして心配そうに眺め、もとより自分から喧嘩をふっかけることなど一度もなく、だから「平和主義者のカール君」と呼ばれていた。カールは何か訴えたいことがある時にはじっとママの目を見つめる癖があり、そのあまりにも純粋なまなざしに魅了され、かわいくて仕方がなかった。
けれど猫も人間と同じで「いい人(猫)」というのは、どうも長生きをしないらしい。ある日突然、水のようなものをものすごい勢いで吐いてぐったり。この時のかかりつけはまだアミちゃんと同じ、野性味たっぷりの獣医さんだったから検査もせず、たぶん「猫伝染性腸炎」だろうとあてずっぽう。外に出していない猫だったから、どこでどう伝染したのか今もってわからないが、とにかく点滴と注射でその場をなんとか凌いだ。
動物病院ではその頃から、見るからに頼りない、大学を出たばかりの見習い医師が、時々「大先生」の代わりに診察をするようになっていた。大先生のいない日に行くのはとても嫌だったが、どういうわけかカールは、大先生のいない日にかぎって具合が悪くなり、次第に状態は悪化してゆき、命の危機が急迫したその日は、ついに休診日と重なってしまった。
仕方なく、今まで一度も足を運んだことのない動物病院に連れていったが、ここは待合室から見える景色が「墓地」という、とんでもなく陰気くさいところ。生死の境をさまよっているカールを、こんな場所にある医院に連れてきたということ自体、なにやらすでに運命は決まってしまっているかのように思えてならなかった。まさに最後の運に見放されたという感じがして、なんとも心細かったが、案の定、カールはこの病院を最後に、たった5年のニャン生を終えてしまった。
それが命を持つものの宿命なのかもわからないが、人間も同じ顛末、母親の時もそうだった。転んで腰を打って救急車で運び込まれた病院は古くて汚く、設備、医師ともに最悪。すぐに転院させようと思ったがどこの病院も満床だからと断られ、果たして悪化の一途をたどるばかり。このタイミングの悪さこそ、運が底をついてしまう前ぶれで、「運が尽きる」という言葉があるけれど、母親もカールもまさにそんな感じだった。
悔しいことに、世の悪人どもというのはなかなか運が尽きない。いずれは尽きる運ではあるのだろうけれど、ママの周りの善人が、子供のお茶碗一杯分ぐらいの運を持っているとしたら、悪人というのは、丼に大盛り一杯分ぐらいの運を持っているように思えてならない。まさに「悪運」というやつなのだろうが、持てるものと持てないものの不公平って、こんなところにもあるというわけか。
写真:(上)ママをじっと見つめるカールちゃん。この瞳がたまらなかった。(左)ようやく離乳食になったカール。貰われていった茶キジの夢之助君(という名前をつけてもらった)と。
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プロフィール
鈍行列車の「ちゅうちゅうとれいん」はいつも満員(ふ~っ…)!時々燃料切れを起こして更新が滞ることがありますが、どうぞ末永くおつきあいくださいネ。姉妹編の「あけみ参上つかまちゅり~」もよろしくお願い致します。
Cast

樹里絵(jyurie):1998年生まれ。マイペースで世話が焼けません。性格温厚で超パパっ子。

桃之輔(momonosuke):1999年生まれ。甘えっ子ですが、ものすごく臆病で、ほとんど一日中、布団の中に隠れています。

亜依子(aiko):2000年生まれ。自己主張が強くて偏屈ですが、そこがまた可愛いいんだなあ。超ママっ子です。

真美(mami):2005年生まれ。外見はタヌキそのもの、性格は犬そのものです。才気煥発で気性が激しい。

美意子(miiko):2005年生まれ? 歯を見ると6、7歳…本当は何歳だろう?一日中、文句たらたら言っています。

奈々(nana):2001年生まれ。ようやくノラっぽさもなくなり、明るい陽気な子になりました。
明美(akemi)にゃ三郎(nyasaburou)、小牧(komaki):2007年生まれ。仲良し3兄弟。毎日楽しそうに暮らしています。

里音(satone):2009年8月保護。どんな生い立ちでどんなニャン生を過ごしてきたのか、それは謎です。未来を生きる猫!

寿々(suzu):1994年12月~2010年3月12日。パパの仕事部屋に入れた唯一の子。人の気持ちがよくわかる、とてもとても頭の良い子でした。

福太郎(fukutarou):1997年4月~2008年3月20日。陽気で甘えっ子。抱っこされるのが大好きでした。お母さん代わりだった寿々との再会、「欣喜猫躍」していることでしょう。
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コメント一覧(2)
おはようございます・・・。初めまして♪昨日は僕のブログに来て下さってありがとうございます♪
ニャンコは飼っていませんけど、大好きです!
3年後・・・兵庫県の甲山にニャンコが多く暮らしてるので少しでも、お手伝いできたらいいなぁと思い近くに引っ越します。(今、多くの方がニャンコのお世話をしてると聞きます)
命は平等で大切にしなければいけませんよね・・・。
かずひと∞ | 2007年05月16日 07:52
かずひとさん、いらして下さってありがとうございます。
お風邪はよくなりましたか?
小さな命のひとつひとつを尊重する気持ち、共存の思いが広がれば、世の中もまた、穏やかな時が刻まれてゆくようになるのではないかと思います。お互いに、ブログを通してそんな思いを伝えていきたいですね。
ジュリママ(jyuri) | 2007年05月16日 15:56