明日は我が身と思えば
2007年05月25日(金)
犬の認知症のことを「認知障害症候群(CDS)」と言うらしい。これ、人間でいうところの「痴呆症」(こちらも「認知症」という呼び方に変わったけれど)。犬の認知症になる確率、意外にも人間より高いのだとか。実家で飼っていた犬のヒロちゃんも、20年生きたうちの最後の2年間は認知症。
この子、小学校の6年生の時に、近所のお酒屋さんで生まれたのを貰ってきた。最近ではあまり見かけなくなったが、あのキャンキャンとよく吠えるスピッツと、もの静かな柴犬の雑種。頭が良くて、家の中で飼っていたせいもあるが、人間の言葉や表情をよく理解する従順な子だった・・・というのは親の贔屓目。
散歩はもっぱらママの役目で、それを嫌だと思ったことはなく、それどころか犬の散歩は家族から解放される貴重な時間。気の向くまま足の向くまま、犬にリードをひっぱってもらって、ただ後をくっついて歩いているだけだった。その間中、こちらはいろいろな空想をめぐらせて楽しんでいるから、いくらでも時間は潰せる。だから、風邪をひいて熱が高いという時以外は、雨が降ろうが風が吹こうが、雪だろうが台風だろうが、せっせと散歩に連れていった。
18年目のその日も特に変わった様子はなく、いつもどおりの散歩。ところがもうすぐ家に着くという時になって、突然、あたりかまわず吠え始めるという奇妙な行動を起こした。右に向かっては吠え、左に向かっては吠え、しまいにはくるくるとまわりながら吠え続ける。犬がいるわけでもなければ、人がいるわけでもない。いつもなら叱れば静かになるのに、その時だけは一向に鳴きやまず、それどころか、目にはもうこの世の景色は何も映っていないふう、叱る声もまったく聞こえていないようだった。
すれ違う人が向ける奇異な眼差しの中、どうにか家まで連れ帰り、動物病院に電話をして大至急往診に来てもらったまではよかったのだが、例の、動物には一切触らないという獣医さん、何が起きたのかさっぱりわからないらしく、ひとまず睡眠薬を打って眠らせ、後は様子を見ましょうとだけ言って帰ってしまった。当時は、犬の認知症なんてまだ知られていなかったのだろうから、仕方がないか。
しばらくして目が覚めたが、もう吠えることはなかった。そしてそれきり、飼い主を見分けることさえできなくなってしまった。声をかけても尻尾の一ミリたりとも振ってはくれず、もともと白内障であまりよく見えなかった目は宙をさまようばかり。誰が帰ってきても玄関先に出迎えてくれることはなくなり、ただただ静かに身を横たえているだけの日々が始まった。
それからの体の衰えは急激だった。人間の寝たきり老人に「廃用性症候群」というのがあるが、あれと同じ。ほとんど寝たままだから足腰は弱り、特に後ろ足にはまったく力が入らず、立たせるとへんなりと崩れ落ちてしまう。散歩なんてとても行ける状態ではなく、庭をなんとかひとまわり歩かせておしまい。そのうち立つこともできなくなり、気分転換をさせてあげようと、抱いて庭に連れてゆくだけになってしまった。
食事も自力では食べられない。だから毎日、鳥のささみとキャベツを柔らかく煮て、粘りをつけるためにお米をちょっと、それをすり鉢で細かくして流動食にし、口の横から流しこむという「強制給餌」。少しずつ様子を見ながら食べさせなくちゃいけないから、時間がかかって結構根気のいる仕事。これは、常日頃「根性」が売り物の姉の仕事になった。
いささか閉口したのは、寝たきりになってしばらくしてから始まった夜鳴きだった。何を要求しているのかさっぱりさからず、ただやみくもに鳴いているようで、毎晩起こされる身には辛く、静かにしなさいと怒鳴ってしまうことも度々だったが、今思うとこれも認知症の症状のひとつ、不安でたまらなかったのだろう。側に寄り添ってやさしく体をさすってあげればよかったと、後悔で胸がキュンとなり、写真を見るたびに「ごめんね」とつぶやいてしまう。
そんな状態だったのに、不思議と排泄のことだけはしっかりしていて、どんなに動けなくなっても、寝ているところでしてしまうというような粗相は、一度たりともしたことがなかった。要求がある時にはクーン、クーンと鳴いて知らせるから、そのたびごとに抱きかかえ、庭に連れていって用を足させる。最初のうちは体を支えてあげていればできていたが、そのうち、それもままならず、庭に横たわったまま用を済ませる。それでも最後の最後まで決して粗相をしなかったのは、犬なりのプライドだったのか。
最近は食事が豊かになり、室内飼いも増えたから、10年なんて序の口、15年、20年と、ペットの寿命はずいぶんと延びた。それだけにペットの介護なんていう、思ってもいなかった問題を飼い主が引き受けなくてはならない時代になってきた。大きな犬を飼っている人を見ると、寝たきりになった時に最後まで面倒を見てあげられるのかしらと、余計な心配をしてしまう。まさかそんな日がくるなんて、想像もしていないに違いない。
家族の一員なんだもの、どんな状況になろうと最後まで看てあげるのが人の情。そう思いたいところだけれど、老いた犬の死に目に遭うのが悲しいからと、その前に保健所に持ち込むという、「トンデモ飼い主」もいるらしい。明日は我が身…老犬の姿に自分の老いた姿を重ねれば、必然、優しくもなろうというものを。
写真:(上)チリリンも13歳になり、最近では寝ていることが多くなった。老け込んでちゃだめよ~!(左)野原に咲く花を摘みながらの散歩。ヒロちゃんとの散歩は最上の時間だった。
プロフィール
鈍行列車の「ちゅうちゅうとれいん」はいつも満員(ふ~っ…)!時々燃料切れを起こして更新が滞ることがありますが、どうぞ末永くおつきあいくださいネ。姉妹編の「あけみ参上つかまちゅり~」もよろしくお願い致します。
Cast

樹里絵(jyurie):1998年生まれ。マイペースで世話が焼けません。性格温厚で超パパっ子。

桃之輔(momonosuke):1999年生まれ。甘えっ子ですが、ものすごく臆病で、ほとんど一日中、布団の中に隠れています。

亜依子(aiko):2000年生まれ。自己主張が強くて偏屈ですが、そこがまた可愛いいんだなあ。超ママっ子です。

真美(mami):2005年生まれ。外見はタヌキそのもの、性格は犬そのものです。才気煥発で気性が激しい。

美意子(miiko):2005年生まれ? 歯を見ると6、7歳…本当は何歳だろう?一日中、文句たらたら言っています。

奈々(nana):2001年生まれ。ようやくノラっぽさもなくなり、明るい陽気な子になりました。
明美(akemi)にゃ三郎(nyasaburou)、小牧(komaki):2007年生まれ。仲良し3兄弟。毎日楽しそうに暮らしています。

里音(satone):2009年8月保護。どんな生い立ちでどんなニャン生を過ごしてきたのか、それは謎です。未来を生きる猫!

寿々(suzu):1994年12月~2010年3月12日。パパの仕事部屋に入れた唯一の子。人の気持ちがよくわかる、とてもとても頭の良い子でした。

福太郎(fukutarou):1997年4月~2008年3月20日。陽気で甘えっ子。抱っこされるのが大好きでした。お母さん代わりだった寿々との再会、「欣喜猫躍」していることでしょう。
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